■ 「蟹アレルギーの妻に強引に蟹を食わせた」炎上騒動を、皮膚科医目線で考えてみる
「蟹アレルギーの妻に強引に蟹を食わせたwwww」という投稿が炎上中とのこと。
まず大前提として――
アレルギーのある人に無理やり食べさせるなんて絶対ダメです。
これは医師としても、人としても論外です。
とくに大切な家族にそんな危険な事をさせるなんて、
とてもじゃないけどシンジラレナイ。
(今回は無理やりって感じでもなさそうだけど。)
ただ、今回の件で医学的に一つ気になるのは、
「その奥さんは本当に蟹アレルギーだったのか?」
という点です。
なぜなら今回の事で本人たちは「蟹アレルギーではない」という確信をえているわけですから、
また美味しい美味しい蟹さんを食べたくなる可能性があるわけです。
・・・え??食べれたからええやん、ですって???
それがプロと素人の考え方の違いですよ。
さてそれでは今日は、プロ皮膚科医としての視点で
今回の事件を少し総括してみましょう。
(とはいえ私のアレルギー偏差値は皮膚科医としては中の中レベル、皮膚科医なら当たり前に知ってるレベルです。)
■ アレルギーの定義は「再現性」
アレルギーの基本は「再現性」です。
つまり、
・食べる
・毎回、同じような症状が出る
このエピソードが重要です。
「なんとなく昔、食べてお腹を壊した」
「かゆくなった気がする」
それから一度も食べてない。
これだけでは、医学的には“アレルギー確定”とは言えません。
それでは今回の奥さんがどのような可能性があったでしょうか。
■ ① そもそもアレルギーではなかった可能性
実はかなり多いです。
・ただの食あたり
・消化不良
・ストレス性の蕁麻疹
・その日の体調不良
・たまたま別の病気が併発した
これをきっかけに、
「私は蟹アレルギーなんです」
と長年思い込んでいるケース。
皮膚科外来でもよくあります。
本当にIgE依存性の即時型アレルギーなら、
・じんましん
・喉の違和感
・呼吸困難
・血圧低下
・(下痢)
などが比較的明確に出ます。
(もちろん色々なパターンは存在しますが。)
「なんか下痢した」は、必ずしも=アレルギーではありません。
■ ② IgEが高かっただけ問題
血液検査で「特異的IgE」という項目があります。
アレルギー検査をすると、
・スギ
・ダニ
・エビ
・カニ
などが並びます。
ここで「カニIgE陽性」と出た場合。
重要なのは、
“陽性=症状が出る”ではない
ということ。
感作されている(抗体はある)、血液の反応はあるけど、
実際には症状が出ない人もたくさんいます。
特に、
・エビ
・カニ
はダニやゴキブリ抗原と交差反応することがあり、
検査上だけ陽性ということも。
またアトピー性皮膚炎などの持病で総IgE値が高い場合、
個別のIgE値も引っ張られ、項目すべてが陽性になることなんかもあります。
残念な事に医師全般がアレルギーに詳しいわけでもありません。(私を含め・・・ね)
症状が一度も出たことがないのに、
「検査が陽性だから食べないでください」
と指導され、
そのまま一生避けている人も実は少なくありません。
小児期にアトピー性皮膚炎で治療歴がある方は、思い当たるフシがあるんじゃないでしょうか?
実際の臨床現場ではあくまでIgE値は参考程度にすることが多いですよ。
■ ③ FDEIA(食物依存。運動誘発アナフィラキシー)
ちょっとマニアックな話ですが。
FDEIAという特殊なアレルギーがあります。
正式名称は
Food-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxis。
食べただけでは出ない。
食べた後に運動すると出る。
これが特徴です。
例えば、
・蟹を食べる
・その後ランニングする
・アナフィラキシー発症
というケース。
「昔出たけど、あれは本当に蟹だったのか?」
という再検証が必要な場合もあります。
特に今回は温泉旅館。
みると部屋食。
蟹を食べたあと、そのままお部屋でゴロゴロ・・・なんて容易に考えられます。
つまりこいつが一番厄介。
もし万が一今後自宅でたべて、その後奥さんが片づけなんかでバタバタ動いたら・・・
そうですね、発症する可能性がゼロではないわけです。
さらにさらに厄介な事に、
FDEIaの中には食物+運動+アスピリンなどのNSAIDS(バファリンとか)という組み合わせなんかも存在します。
つまりカニ食べた後に痛み止め飲んで運動した時だけ出る!!!
(マジで変わってるアレルギーですよね)
そんな場合だって存在します。
・・・・え??
そんな稀な事なくないか?ですって???
それでは生理痛酷い主婦の方が市販薬ですませて蟹を食べた後にワンオペで家事をしたと想像してください。
・・・ね、あり得るでしょ?
・・・つまり今回の「摂食できた」というエピソードだけでは
アレルギーでは絶対ない、とは言い切れないってことです。
■ 甲殻類アレルギーの本当の怖さ
とはいえ、
本物の甲殻類アレルギーは本当に怖いです。
蟹やエビの主な原因抗原は「トロポミオシン」。
重症例では、
・全身じんましん
・呼吸困難
・意識低下
・アナフィラキシーショック
に至ることもあります。
最悪、命に関わります。
だからこそ、
「試しに食べてみよう」は絶対NG。
食物負荷試験は医療機関で万全を期して行うものです。
ちなみに、私の所属していた医局はとってもアレルギーに熱心だったので、
私ももちろん負荷試験を担当したことがありますが。
点滴とって、いつぶっ倒れてもよいように、ボスミン片手に担当しますからね。
もしアナフィラキシーでたら・・・と毎度めっちゃドキドキしながら検査してました。
(当たったことないので、実はみんなアレルギーじゃなかったというオチ。紅先生は当たったことあるんじゃないかな。)
■ 「食べられた=アレルギーじゃなかった」?
今回の件が仮に、
「食べても何も起きなかった」
のであれば、
可能性としては
・そもそも違った
・採血検査だけ陽性だった
・過去の症状は偶然
・FDEIAなど特殊パターンだった
などが考えられます。
もし本当にアレルギーでなかったなら、
「人生の楽しみが一つ増えた」
という意味では、医学的にも、ひとりの人間としても大変喜ばしいことです。
でもこれは、
医療的に安全に確認した場合の話。
強引に食べさせるのは、ただのギャンブルです。
なんなら一種の暴力といっても過言ではないでしょう。
とても愛する相手にすることではありません。
(実際夫婦関係は知らないので、ネタかもしれませんが)
■ 皮膚科医としての結論
アレルギーは
・自己判断しない
・ネット情報だけで決めない
・無理やり試さない
これが鉄則。
もし
「昔アレルギーと言われたけど、本当かな?」
と疑問がある方は、
・詳細な問診
・血液検査
・必要なら専門施設での負荷試験(色々なアレルギー検査が実はあります。)
で評価することが可能です。
名古屋市中区栄のあいちビューティークリニック栄本院でも、
アレルギーに関する皮膚科診療を行っています。
「思い込みアレルギー」も意外と多いので、
気になる方は一度きちんと確認してみるのもアリです。
■ まとめ
・アレルギーの本質は「再現性」
・IgE陽性=食べられない、ではない
・FDEIAという特殊型もある
・でも無理やり食べさせるのは絶対NG
アレルギーは本当に怖い。
そして、正しく評価すれば
「実は大丈夫だった」というケースもある。
大事なのは、
“ノリ”ではなく、“医学”です。
ここで私の恩師である松永教授のお言葉を。
アレルギーの診断は他人の人生を制限する重大な診断だ。
しかし、アレルギーを正しくしれば、その人の人生の幅を少しひろげることだってできる。
です。
例えば口紅でかぶれたとしたら、口紅全てを付けられない・・というわけではなく
その中の特定物質をちゃんと診断さえすれば、「使える口紅」が見つかって
ちょっと楽しい人生になる
・・という素敵な金言です。
若い日の私はこの素晴らしい本質に気づけないまま過ごしてしまいましたが
今になれば教授の功績の偉大さに脱帽するばかりです。
~あとがき~
何個か気になる投稿がありましたので、それにこたえてきます。
①高級な蟹だから出なかった
→蟹の高級、安いで抗原が変わるわけではないので、高級料亭だから大丈夫!
ではないです。
②蟹本体より、せんべえのがヤバい
→これはあまり聞いたことないですが、せんべいって米粉や小麦粉と混ぜてあるから
ものによっては抗原の量は少なくなるんじゃないかな?
やっぱ本体のがやべーと思いますよ。
その他またあれば追記していきます





